東京代表として全国大会にも出場している JACPA 東京 FC。
その JACPA 東京 FC のコーチを務める鈴木宏輝さんにお話を伺いました。J リーグで活躍する選手や各年代の日本代表を多数輩出するジャクパさんの指導に対する思いを聞かせていただきました。
Q まず、会社のことについて聞かせてください。
株式会社ジャクパはどんな活動をしている会社ですか?
株式会社ジャクパは、創業52年の歴史を持つ幼児教育の企業です。幼稚園・保育園・認定こども園を対象に、体育指導を行う「正課指導」事業を展開しています。
また、午後の時間帯には、サッカー・体育・スイミング・新体操・チア・キッズダンス、英会話など、多彩な課外教室を運営し、子どもたちの成長をサポートしています。
現在、日本国内では北海道から九州まで23 支部を展開し、海外にも4つの現地法人を持つなど、幅広い地域で活動を行っています。
Q ジャクパ東京 FC というチームについて教えてください。
ジャクパ東京FCは、サッカーを続けていく上での基礎をしっかりと築くことを大切にしているチームです。監督の野口が特に重視しているのは、「最後まで諦めずにやり抜くこと」。サッカーの技術だけでなく、挑戦し続ける強い気持ちを育てることにこだわっています。
また、サッカーを通じた人間性の成長も重要視しており、チーム内での関わりや仲間との協力を大切にしています。これは、サッカーのプレーだけでなく、将来どのような道に進んでも必要となる力だと考えています。
当チームは、外部セレクションを行わず、幼児期から育てたスクール選手を中心に編成しています。実際に、幼少期から指導してきた選手の中には、Jリーガーやアンダーカテゴリーの日本代表に選ばれる選手もいます。この一貫した育成方針には自信を持っています。
現在、ジャクパ東京FCは、さまざまな幼稚園・保育園でサッカースクールを運営しており、小学3年生になるとスクール内でセレクションを行い、そこからチーム活動へと移行します。チームの練習は土日のみで、平日は各スクールで週1~2回のトレーニングを行う形をとっています。
スクールの拠点は東京都内に幅広く展開しており、埼玉県狭山市にはジャクパ専用の人工芝グラウンドがあります。土日はそこで練習や試合を行い、選手たちがより実戦的な経験を積める環境を整えています。
Q 先ほど専用グランドの話が出ました。
クラブハウスがあり、人工芝のグラウンドという素晴らしい環境ですよね。ジャクパ専用グランドは選手たちが最高の環境でプレーできるよう整備されており、週末にはここで練習や試合を行っています。
このグラウンドが完成してから13年になりますが、もともと専用の人工芝グラウンドを持つことは我々の長年の願いでした。13年前に全日本U-12サッカー選手権大会で初めて東京で優勝して全国大会に出場しました。その経験をきっかけに、「より強い良いチームを作りたい」という想いが高まり、五十嵐会長の決断により、このグラウンドを設立することができました。
今では、恵まれた環境のもと、選手たちが日々成長できる場として活用されています。
「“勝利はゴールじゃない。成長と共に、あとからついてくるもの。”」
Q 育成では人間教育もされているというとこなんですけど、サッカーの目標、結果はとして求めているものはありますか?
小学生の全国大会である「全日本少年サッカー大会」で日本一になることは、大きな目標のひとつです。しかし、単に勝利至上主義ではなく、次のカテゴリーへとつながる「育成」の部分も大切だと考えています。勝つことだけが目的ではなく、人間的な成長と勝利の両方を追求することをチームの指針としています。
また、子どもたちは年齢や個性によって成長の仕方が異なるため、「ジャクパの選手はこうだ」と一概に決めつけることはできません。そのため、一人ひとりの能力を伸ばす指導を意識しています。自信に満ちた代もあれば、人前で話すのが苦手な代もいます。フォーメーションも毎年異なり、「ジャクパのサッカーはこうだ」と型を決めるのではなく、それぞれの子どもたちが最大限のパフォーマンスを発揮できるように考えながら指導しています。
とはいえ、プレーモデルやジャクパとして大切にしている価値観は統一しています。例えば、挨拶や荷物の整理といった基本的な習慣、人との関わり方を大事にすることです。練習を休む際も、親を介してLINEで済ませるのではなく、選手自身が直接連絡するよう指導しています。サッカーの技術だけでなく、人としての成長を重視することが、ジャクパの育成方針の根幹にあります。
「“技術と体力は鍛えてきた。心の育成だけが、ずっと足りなかった。”」
Q パンケーキプロジェクトを導入してもらいましたが、なぜ導入してもらったかっていうところをまず聞かせてください。
サッカーでは「心・技・体」という言葉がよく使われますが、これまでの指導では主に
「技術」と「体力」の向上に重点を置いてきました。しかし、「心」の成長、つまりメンタル面の強化については、これまで深く取り組めていなかったのが実状です。単なる根性論ではなく、指導者としても選手たちのメンタルをどのように育てていくべきかを学びたいと考えたことが、導入のきっかけでした。
サッカーの試合では3つのことを求めてます。
1. グラウンドで何が起きているのかを正しく把握すること
試合中の状況を冷静に観察し、問題を見つける力を養う。
2. その問題をどう改善するかを考えること
状況に応じて適切な判断を下し、プレーに反映させる力を身につける。
3. どんな状況でも自分のパフォーマンスを発揮できる選手になること
大事な試合やセレクションなど、プレッシャーのかかる場面でも自分の力を最大限に出せるようにする。
この3つを実現するためには、メンタルトレーニングが不可欠だと感じました。選手にとっても必要な要素ですし、指導者としても選手のパフォーマンスを引き出す方法を学ぶために、一緒に勉強していきたいという思いから「パンケーキプロジェクト」を導入しました。
Q 実際に講座導入してみて感じたこと。そしてグランドに活かせた部分があったら教えてもらいたいなと思います。
まず、指導者として非常に学びの多い講座でした。今まで気づかなかった視点が得られ、「なるほど」と思うことが多かったですね。
実際にグラウンドで感じたのは、選手とメンタル面の共通認識を持てたことで、彼らの意図をより深く理解できるようになったことです。例えば、試合中にドリブル突破を試みてボールを奪われた選手が、次のプレーで簡単なパスを選択したとします。一見すると「消極的になったのでは?」と思う場面ですが、実は彼はメンタルスキルを活用し、小さな成功体験を積み重ねようとしているのだと気づけるようになりました。
もし指導者がこの考えを知らなかったら、「なぜそこでチャレンジしないんだ?」と否定的なコーチングをしてしまうかもしれません。でも、選手の意図を理解していることで、「よし、そのパスが通ったら、次はもう一度仕掛けてみよう」と、前向きな声かけができるようになりました。この変化は、現場で大きな違いを生んでいると感じています。指導者としてはまだまだ学ぶべきことが多く、もっとメンタルトレーニングをグラウンドに落とし込んでいかなければならないと、2年間取り組んできて強く実感しています。
この年代でメンタルトレーニングを取り入れて最も良かったと感じるのは、自分のプレーと向き合う時間を作れることです。「今日はプレーが良くなかったな」→「昨日寝るのが遅かったからかな」「朝ごはんをちゃんと食べなかったかも」といった振り返りができるようになります。小学生のうちからその習慣が身につくと、パフォーマンス向上に大きく役立ちます。
また、世界で活躍する選手たちは、試合や練習への準備の重要性を理解しています。身体的な準備はもちろん、メンタル面でもどれだけ意識を持って臨めるかが大切です。ただ練習に参加するのではなく、「今日は何を意識して取り組むか」を考える選手と、何も考えずに臨む選手とでは、成長のスピードに大きな差が出ます。
私たち指導者はきっかけを与える存在ですが、最終的に「何を学び取るか」は選手自身が考えるべきことです。その意識が変わるだけで、練習の質は大きく向上すると感じています。
「“見えない努力こそ、指導者が一番見ていなければならない。”」
Q 把握するっていうポイントで言うと、講座の中で自分のプレーを考えてもらう
時間が多いと思うのですが、そのあたりも準備力や自分と向き合う時間にものサポ
ートになっていましたか?
そうですね。まず、「自分の得意なプレーって何だろう」「自分の苦手なプレーは何だろう」といった視点で自分を見つめる時間がありました。そして、苦手なプレーを細かく分解して「どうすれば改善できるのか?」というアプローチが講座の中でもありました。これは、練習に取り組む目的を明確にしてくれるものだと思います。
ただやみくもに自主練をするのではなく、「苦手だから、まずここから取り組もう」という意識を持つことが大切だと感じています。それが試合で少しでも発揮されれば、子どもたちにとって大きな自信につながります。
そして、その努力や成長を指導者がしっかりと見つけてあげること。これは選手の自己肯定感を高めるうえで、とても重要な循環だと思います。
その点で「サッカーノート」が非常に役立っています。選手がどんな課題に取り組んでいるかを“見える化”するために、自分のことをノートに書いてもらっています。
たとえば、「左足でシュートが打てないから、いつも右に切り返してしまう」ような子がいたとします。でも、左足のシュートを一生懸命練習していることを、ノートを通じてこちらが把握できていれば、たとえ試合で左足のシュートが決まらなくても、「今のいいチャレンジだったね!どんどんやっていこう!」という前向きな声掛けができると思うんです。
一方で、選手の努力を知らなければ、「やっぱりお前、左足は苦手だな」といった声掛けになってしまう可能性もある。だからこそ、選手が今どんなことに取り組んでいて、何が得意で、何を頑張っているのかを見える形で共有することは、指導者としても非常に大事なポイントだと感じています。
Q これからの選手たちに期待すること、ジャクパさんの今後の展望を教えてもらいたいと思います。
繰り返しになりますが、やはり私は「どんな状況でも自分のパフォーマンスを発揮できる選手」になってほしいと願っています。
卒業生の中には、日本代表に選ばれた佐藤龍之介選手や、U-18代表の菅原裕太選手がいます。また、先日J1で最年少出場を果たした北原槙選手もジャクパの育成を経た選手です。
こうした選手たちのように、可能性を持った子どもたちがその才能を伸ばし、輝ける環境を提供し続けたいと考えています。なにより、その可能性を潰してしまわないことが指導者としての大きな使命だと思っています。
もちろん、Jリーガーになれるのはごく一握りです。でも、サッカーを通じて、人間性を育み、社会でも活躍できる人材を育成することも、私たちの大切な役割です。だからこそ、技術だけでなく「人を育てる」という姿勢はこれからも変えずに取り組んでいきたいですね。
そして私は、「育成」と「結果」、この両方を追い求めることは可能だと信じています。だからこそ、JACPA東京FCとしても“日本一”という目標に強いこだわりを持って、これからも挑戦を続けていきたいと思います。